春嵐期待するも春うららの女郎仏

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アラシらしい「名作」を大きめ画像で

 我がアラシは期待を裏切らないな。ソウ・テイ相手のこの立ち回り、まさに嵐の女の子だ。

 で、早くも、以下は長い余談となってしまう。

 桜は、風に吹き散らされる桜吹雪状態こそが、私にとっての見ごろとなる。したがって、東京の川向こう川口市では、まさに今がチャンス。そこで、昨日北東、今日は南東、と自転車で経巡ったのだが、残念ながら、春のうららで風が弱く、花びらはちらちらと上品に舞い落ちるだけであった。
 ところで、 前を通りすぎただけだが、北東方面には『女郎仏』を祀ったお堂があって、同じ境内に枝ぶりの良い桜が植わっている。何でも、この仏さんは、この地で行き倒れていた若い女性を葬ったもので、由来書は次のように書かれている。

 「女郎仏は、この近在ではだれ一人として知らぬ者のないほど知られた仏であり、昔から下の病に霊験あらたかであると人々の信仰を集めている。由来については、資料がなく、昔からの言い伝えのみであるが、最も信ずべき石井栄助氏の書き残された記録によると、寛政二年(1790)三月一日暴風雨があり、翌日、村役人が土手山という官林を見回りに行ったところ、山の中から若い女のすすり泣く声が聞こえてくるので行ってみると、十八、九歳位の気品卑しからぬ女性が病いに倒れ、苦しんでおり、いろいろ事情を尋ねてみたが、病い重く、言葉も絶え絶えで、手掛かりとなる所持品もなく、どこの者ともわからぬため、仮小屋を造り、手当てをしたが、その効果もなく、五日後に息を引きとってしまった。この女の人を葬ったのが女郎仏である。女郎仏とは、その女性があまりにも美しく、可憐な乙女であり、身分を明かさなかったので、もしや女郎ではなかったかとのことからいわれるようになったと思われる」

 何とミステリアス!!そこで、昔からいろいろな想像がなされたらしく、女郎とは宿場女郎のことで、売春宿から逃げ出して行き倒れとなり、梅毒などの性病を患っていたので、下の病に効験のある仏さんになったのだ、とか、女郎は上臈(江戸城大奥など大名や大身の武家の家に仕える高位の女官)のことで、武家のしかるべき身分のある人と見なしたためのネーミングだ、などとも言われているそうだ。
 どうだろう。宿場女郎が足抜けして行き倒れたのなら、多少美しい顔をしていたくらいでは、不思議ともされなかったのではなかろうか。身分制社会なので、身分により立ち居振る舞いは顕著な違いがあり、当時の人たちは現代人より、そうした違いに鋭敏だったはずである。従って、そこにいるのが不自然な、上臈のような気品のある人と見なして、じょうろう仏と伝えていたところ、じょろう(女郎)に転じてしまったと考えた方が、自然に思える。
 また、「下の病」とは性病ではなく、昔は「血の病」と呼ばれた女性特有の病気一般のことで、この場合、妊娠関連の病気ではなかったかと思える。なぜそのように思うのかとと言えば、その村役人の物置でもそこらの炭焼小屋でも、看護するだけならさっさと運び込めば良さそうなものを、わざわざ「仮小屋を造」ったとあるのが引っかかったのだ。当時は、産褥を忌避する迷信がはびこっていたので、今後も使用する建物で看護するのをはばかったのではなかろうか。
 つまり、この女性は妊娠中に無理な旅に出てしまい、大雨に合って熱でも出したのか、切迫早産を引き起こしてしまい、陣痛で苦しんでいるのか、流産で悲しみ苦しんでいるところを発見されたと想定するのである。そもそも、現在の女郎仏は、性病の治癒ではなく、安産に霊験あらたかとして信仰を集めており、これは「下の病」から転じたのではなく、もともと安産守護の仏様と見なされていたものを、当時の感覚で「下の病」と表現したために、明治以降に誤解が生じたものではなかろうか?
 「気品卑しからぬ女性」と、自分たちとは異なる高貴な身分と感じた当時の庶民にして見れば、まだ若いその高貴な人が、嵐の晩に伴も連れずに田舎道をうろつき、身分も明かさず産褥で亡くなってしまえば、あまりの異常性に憐憫以上の薄気味悪さを感じたはずである。わけがわからない→何か深い事情がある→恨みごとかもしれない→恨みを残され祟られたくない→神仏として崇める、こうした思考の推移は、ごく当然の成り行きと言えよう。

 ・・・待てよ、してみると、お女郎仏様は、文鳥の産卵にもご憐憫頂けるのではなかろうか?されば、産卵シーズンの始めにはお参りすべきかもしれない。考えておこう。
 別の空想としては、寛政2年と上臈という言葉に着目し、大奥関連だろうか。この頃は、松平定信が寛政の改革をゴリゴリと推進しており、その一環として、大奥のリストラが行われ、奥女中がかなりの数で解雇されているはずなのだ。そういった噂が、知れわたっていたとすれば、品のある女性を「上臈」と見なす連想が働きやすかったかもしれない。・・・これも、考えておこう。

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