シナモン因子を持っているかもしれないアラ
飼鳥団体にせよ文鳥愛好者のオフ会にせよ、それ自体は情報交換の場として有益かもしれないが、そこで交換される体験談という「事実」について、しっかり批判的に受け止められないと、間違った先入観を持ってしまったり、せっかく持っていた正しい認識が歪められることにもなりかねない。集団で楽しく話すには、それなりに相手に合わせるはずで、それを繰り返していると、無意識のうちに自分の考え方も変わってしまいがちで、それは良い方向とは限らないのである。
つまり、その場のおしゃべりはその場のこととして、それで得た情報は、後でしっかりと検討吟味しなければならない。しかし、それは結構難しい作業で、気づけば、客観性・科学性・論理性を欠く主張をするようになり、仲間内以外の第三者の納得は得られなくなってしまうことにもなるだろう。そして、場合によっては、無知な人をミスリードすることにもなる。
さて、昨日批判した伊藤氏の文鳥飼育本『ザ文鳥』には、このように書かれている。
「何色でも良いからできるだけ数多く繁殖を成功させたいというのであれば」「優勢(※原文ママ、「優性」の誤植と思われる)の色遺伝子を確実に持っているもの同士を交配するとよい」「赤い目のブンチョウは劣性遺伝子しか持っていないため、繁殖しづらくなります」「人気のあるシナモンブンチョウが、サクラブンチョウやハクブンチョウのように多くないのはそのような理由からです」
これは、あまりにも無茶苦茶な主張と言わねばならない。色を表現する遺伝子の優劣と繁殖数の優劣に、一体何の関係があるだろうか?シナモンの色遺伝は劣性に相違ないが、それは色を遺伝する際の優先順位が、他の色を発現させる遺伝子に対して低いに過ぎず、他の性質とは何ら関係ない。
伊藤氏は、シナモン文鳥が人気があるのに個体数増えないのは、繁殖数が少ないからだと思い込んでいるようだが、それは誤解だろう。需要があれば、一つがい当たりの孵化する数が、もし万一にも少ないとしても、その品種の個体は必ず増える(儲かるから増やす)。文鳥にも事例があるだろうに。弥富系の白文鳥同士では、何と四分の一、25%が中止卵となる遺伝子上の特徴を持つが、それでも昔は白文鳥の需要が大きかったので、弥富に所在した文鳥農家では、白文鳥同士をつがいとしていたと、『農業全書』に文鳥出荷組合の会長だった方が証言されている。つまり、繁殖数より、人気品種が生まれる比率を重視し、それにより、今に比べれば数十倍家数百倍の白文鳥の需要をまかなったという、科学的に証明済みの歴史的事実が存在するのである。
その程度のことは、伊藤氏もご存知だったはずだが、誠に不可思議と言わねばなるまい。もし、シナモンの個体数が桜や白より少ないとすれば、需要がないからである。それは価格が比較的に高いことも要因として挙げられるかもしれないが、普通に考えれば、残念ながら今のところは、桜や白より人気がないからに過ぎない。
シナモンの色遺伝子が劣性である点で問題となるのは、劣性の必然として隠れてしまうことにある。
我が家で見れば、クリは、母シナモン・父桜、のいわばハーフで、外見は桜的だが、確実にシナモン因子を持っている。それは明らかだが、そのハーフの子(イート)が、シナモン因子を受け継いだか、さらにその子孫に伝わっているのか否かとなると、外見では判断できない。相手をシナモン文鳥にして、何羽かその子どもを見ない限り、わからないのである。
つまり、イートの子であるアラ(仮名)は、その姿を見る限り、母親同様の濃い桜的な外見になるに相違ないが、もしかしたらシナモン色にする劣性因子を持っている可能性があるわけだ。その確率は25%で、この可能性(疑惑)は、この系統では永遠に続くことになる。これこそが、桜文鳥の家系にシナモンを組み込んだ場合の問題点で、繁殖家として他の人に「桜文鳥」として売る立場なら、躊躇しなければならなくなる。
・・・ま、我が家の場合は、基本的に門外不出なので、気にしないことにしよう。
ハーフのおクリ
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