埼玉県の草加市が、「鳥獣保護法」をめぐって、中央官庁と壮絶?な応酬を展開した際の、実に興味深い経過があります。是非お読みいただきたいところですが(コチラ)、時間の経過に伴いページが無くなることも有り得るでしょうから、引用しながら経過を追ってみましょう。
カラス公害に悩む草加市は、「カラス被害を減らすためには、カラス自体を減らす必要があり、巣の撤去や、卵の駆除が有効な手段となっている。このため、私有地内の巣については、土地所有者に自主的な駆除等をお願いしているが、巣の撤去にあたり、巣の中に卵及び雛がいる時は、事前の許可が義務づけられていることから、発見しても土地所有者等が即時に撤去することができず支障が生じている」と現状を説明し、「カラスの雛、卵に限っては、鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律第9条第1項の捕獲の許可の特例として、事前の許可を必要とせず、市民が率先して駆除できる」ように認める特区化を、所轄官庁である環境省に願い出ました。
それに対し環境省は「カラスに限定した捕獲であっても、許可を必要としない自由な捕獲を認めることは、過大な捕獲が行われたり、必要のない安易な捕獲を助長する懸念があることから、鳥獣の適切な保護管理を推進する上で適当でない」と回答しました。まずは、にべもなく拒否したわけです。
この回答に草加市側は納得せず、「過大な捕獲や必要のない安易な捕獲を助長することは考えにくい。カラスの生息と住民生活への影響は地域により様々である。全国一律ではなく、地域の特性にあった取り組みを認めていただきたい」と、さらに意見書を提出します。
それに対し環境省は、「今回の特区提案内容は、捕獲する鳥獣(カラス)が実際に被害を生じさせているか又は被害を生じさせるおそれがあるか、さらに適正な捕獲手段であるか否かの客観的な判断は必要とせずに鳥獣(カラス)の捕獲を可能とする内容となっており、鳥獣の適切な保護管理を推進する上で適当でないと考える」と、拒否を繰り返します。
しかし、おせんべの街、草加市は引き下がらずに、「現状の事前の許可制では、市民の生活に支障をきたす現状に対して適切な対応が取れないことから提案しているものである。このことをご理解のうえ、市民の安心、安全を高められるように、前向きな検討をお願いしたい」と再考を促しました。
この再三にわたる申し立てに、環境省側も困惑したようで、次の最終回答には、これまでとは異なる本音を伝えてきているように、私には思えます。まず、「今回の特区提案内容は、捕獲する鳥獣(カラス)が実際に被害を生じさせているか又は被害を生じさせるおそれがあるか、さらに捕獲手段が適正であるか否かの客観的な判断は必要とせずに鳥獣(カラス)の捕獲等を可能とする内容となっている。このため、鳥獣の保護管理について専門的知見を有していない者(市民)の判断で捕獲等を行うことが可能となり、被害の有無について十分な検討がなされず、又、不適切な手段によりカラスの捕獲が行われるなど、違法な捕獲を助長する可能性があることや、状況の変化により対象鳥獣(カラス)の保護をはかる必要が生じた場合に捕獲等の制限を課すことができないなど、鳥獣の適切な保護管理を推進する上で適当でないと考える」、とこれまでの回答内容を繰り返した上で、「なお、当該要望事案については、捕獲の許可権限者は市長となっており、過去の被害実態等を勘案して、カラスによる被害が生じるおそれが予想される場合にあっては事前に捕獲許可を出すこと等も可能であり、迅速かつ弾力的に許可手続きを行うことで適切な対応を行うことが可能と考えている」と、わざわざ現行法内での対処方法を示唆しています。
つまり、特区のような目立った特別扱いは出来ないが、カラスの駆除は地方行政が現行法を適当に運用すれば十分可能なので、「黙ってやっとけ。こっちゃに振るなや。忙しいやんけ」と、なぜか怪しい関西弁調になってしまうのが、おそらくは環境省の本音でしょう。確かに、カラスの捕獲許可権限は草加市長にあるのですから、捕獲の必要性ありと見なせば、「ちゃっちゃと許可すればええねん!」なのです。
特区にならなければ、カラスの駆除もできない、というのは、草加市側の誤解に過ぎず、現行法をしっかりと理解していないとも言えます。しかし、では上級官庁が適切な対処法をアドバイスしてきたのかと言えば、それは皆無で、再三執拗に要求をされた挙句に知恵を貸しているに過ぎない、といった態度でしかありません。カラスの被害に悩まされる国民が、草加市に限らず都市部に多く見られるにも関わらず、有効な対策を検討して自治体に指示することなく、現行法での対処すら周知せず、「鳥獣の適切な保護管理を推進する上で」とお題目を繰り返すだけというのは、あまりにも無責任な対応と言わねばなりません。
このように、現状の問題に対して、法律の解釈や運用で、現行法に違反することなく、対処できるケースがほとんどのはずですが、実際に地方行政を担う自治体側は、生真面目に法律の文章の文字を追ってしまうらしく(法律を守ろうとする意識ばかりで、それを上手に解釈して運用する意識が欠如している)、法律は変えないと何もできないと思い込んでしまい、結果、課題を放置する傾向があるようです(数年で部署を移動するので、それまで何もしなければ逃げられる)。一方の中央官僚は、法の不備を積極的に見直そうとする努力はほとんどせず、自治体の問い合わせに対しては、相手の立場での親身な回答などほとんど有り得ず、各自治体に説明のないまま不備の多い法律の運用を丸投げして、何もしようとしないことが多いのではないでしょうか。そうした、実にありがちな構図が、この件にも現れていると、私には思えます。
カラス対策の今昔~綱吉未満の動物愛護行政~【前編】
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