ペレット全否定の獣医さん

 飼い主の考え方が十人十色なのは当然ですが、獣医さんの考え方もいろいろなので、それを理解していないと、たまたま受診した獣医さんの意見を、絶対的なものと勘違いしてしまうことになります。
 再三再四の繰り返しとなりますが、鳥用ペレットについては、もともとが最善のエサを用意しにくい大型インコ飼育での次善の策で、文鳥については、低カロリーな数種の穀物を配合した主食と、副食の組み合わせ、という、より自然に近くバランスの取れるエサを、数百年来与え続け飼育下で繁殖させ続けてもきているので、あとは個々の質の問題(「食の安全」)や多様性の拡充など、飼い主それぞれのの理想を加えれば、わりに容易に、最善とその飼い主が信じられる食を提供することが出来ます。従って、大型インコの場合と異なり、ペレットへの切り替えを単純明快に「より正しい」とは言えず、むしろそれは最善を目指すのとは別の方法論となるのです。もちろん、実際の飼育では、さまざまな状況や必要性がありますから、ペレットも次善の策としてやはり有効な手段のはずで、否定する必要はないでしょう。アメリカ製のものは、もともと文鳥とは全く別の生き物である中型インコを意識して作られていると考えられるので、メーカーの説明を必ずしも鵜呑みにせず、問題が起きるようなら、与え方を工夫していく柔軟性を持って、利用すれば良いだけだと思っています。
 これは一貫した私の立場で、ペレット自体の否定などしたことがありませんし、全否定しようとは思ったことすらありません。自分が大型インコを飼育すれば、ペレット食にするでしょうし、中型インコを飼育するにも、おそらくそれを選択し、より小さいインコ類を飼育する場合も、副食くらいには取り入れ、場合によっては切り替えたでしょう。案外穏健なのです。
 しかし、小鳥の専門を自称する獣医さんには、ペレットそのものを否定する過激な人もいます。先ほど見かけた『エキテン』という口コミサイトに投稿されているオカメインコの飼い主さんの証言によれば、その獣医さんの意見(何でもありの「診療室トーク」)は以下です。

 「鳥のエサ(シード)はほとんど中国の輸入であり、高濃度の農薬がフリーパス」 

 「ペレットに関しては筋胃の機能を弱め、その影響でホルモン分泌まで止まってしまうので、使用自体が悪い

 「自然派」の考え方を持つ人なら、獣医さんでなくとも、素朴にこういった考え方をしているかもしれません。個人として、科学的な裏付けや論理的整合性を意識せずに、そのような感覚を持って生活をするのは自由ですが、科学的な裏付けも何もないのに他人に勧めるとすれば、それは無責任であり、また不見識であり、まともな科学者には出来ない行為です(この獣医さんには、放射能の舌禍事件同様に、軽率なところが多分にあるのかもしれません。せっかくカリスマ性があって、獣医業とは無関係なエコロジー?団体の会長としては、成功を収めつつあるようですから、人前での非科学的なおしゃべりは、慎まれた方が良いと思うのですが、如何なものでしょう?)。
 確かに、「筋胃の機能を弱め」は、柔らかく消化が良ければそれだけ筋胃が活躍する必要がなくなるので、有り得ないとも言い切れないでしょう。しかし、その分消化吸収が良いので問題ないとも言えそうです。つまり、消化の悪い慣れない食べ物には弱い体質になると考えられないでもない、程度の話で、慣れない食べ物を与えなければ良い、と言われたらそれまでのことです。ドッグフードも同様ですが、同じようなカリカリしたものを食べ、同じような糞を毎日して生きているのは、確かに自然な状態とは異なります。しかし、変なものを食べてお腹を壊すより次善策として正しいとするコンセンサスが、ほぼ社会的に根付いているので、それを使用する人が主流になっているのだと思います。それを、犬猫も診る獣医さんが真っ向から否定するとは、よほどの勇気の持ち主と言えるでしょう。
 さらに「ホルモン分泌まで止まる」と断定したとなれば、これは栄養学マター(カタカナ英語をわざと使っています。栄養学分野での問題の意)、むしろ獣医学マター(獣医学分野での問題)でしょう。獣医さんでペレットを推奨する人なら、黙って済ませられる言動ではないはずです。迷える飼い主に能書きを垂れる時間があるなら、同じ獣医さんの立場として、科学的に否定しさって欲しいものです・・・、という以前に、「分泌が止まるのを証明する実験データを出せジジイ!」とのペレット使用者の叫びが聞こえそうで・・・、そして。確かにその叫びこそ正解だと私は思います(だいたい「ホルモン」と言ってもいろいろあるわけで・・・)。科学的な根拠のない否定は、まともな科学者なら出来ない話です(したがって、遺憾ながら「物好き爺様」呼ばわりになってしまうのです)。他人に『指導』したいのなら、その論拠を科学的に提示するべく、臨床医療とはまるで別の分野のご研究をなされた後に、お願いしたいものです。

 私の場合は、輸入された穀物の配合飼料使用者でそういったものを売っている立場でもあるので、前段の「鳥のエサ(シード)はほとんど中国の輸入であり、高濃度の農薬がフリーパスらしい」の部分を、否定しなければならないでしょう。
 確かに、粟(アワ)などは、あの中華人民共和国からの輸入が多いようです。しかし、中国の農産物にしては安全と考えるのが論理的で、過剰な心配は妄想の産物だと思います。文鳥の主食となる粟・稗・黍などは、雑穀と呼ばれますが、雑草並みの生命力なので、元々病虫害にはかなり強い植物です。したがって、栽培するのに際して農薬はあまり使用されません。大雑把な思考の人は(生態学協会の会長がこんな事で良いのだろうか・・・。これも口が滑って誤解を与えたということか・・・)、野菜や稲作で過度な農薬散布が発覚すると、すべての農産品が農薬まみれのように思い込んでしまいがちですが、必要ないものに農薬を散布するような手間ひまやコストをかける人は、どこの国にもいません。そもそも、雑穀を栽培するのは、稲作が出来ない山間の田舎、ようするに川から灌漑用水を引けない地域で、農業も原始的な方法で行なっているはずです。飼料用に大規模に作付けして収穫する北アメリカやオーストラリアと異なり、人間の食用に栽培されていたものが、中国国内での需要の低下で飼料用に輸出されるようになっていると考えられ、依然として基本は自分たちの食用ですから、あまり無茶なことは出来ないでしょう。また、する必然性もないのです。もちろん急激に環境汚染が進んでいる国なので、その点の農作物への影響は心配されますが、外見を良くするためには病虫害用の薬剤散布が手っ取り早い野菜や、河川からの灌漑が必要なため、その水質汚染の影響を受けやすいお米とは異なる点は、しっかりと認識すべきでしょう。
 この獣医さんの頭には、『輸入検疫』という言葉はないようですが、実際は抜き取り検査が頻繁に行われており、「高濃度の農薬がフリーパス」といった状況は有り得ないです。もしかしたら、輸送途上の農作物が劣化しないために、収穫後に薬剤を散布するポストハーベスト問題が念頭にあったのかもしれませんが、これは劣化しやすい果実類や、船便で遠距離を輸送する際に、劣化を防ぐために農薬類を散布するものですから、隣国の中国からの作物では問題になりにくいものと思われます(こうした話は、「ビオトープ」にせよ生態系への影響に関する知識の深い人なら、私よりずっと詳しく理解しているはずですが・・・)。
 なお、 現在どれほどの比率になっているのか不勉強で知りませんが、飼料穀物は北米やオーストラリア産も多く(飼料会社が扱っているのは知っている)、「ほとんど中国の輸入」は、誤解を招くと思います。現在は、中国現地での転作の進行や中国当局の輸出規制により、中国への依存率を低下させなければならなくなってきている方が、よほど現実的な問題で、例えば粟穂は一般的に流通しなくなる可能性もある状況です。そういった現状を認識しているのか、疑問に思えます(【参照】飼料会社西種商店のサイト)。
 以上のように、この獣医さんの鳥の飼料についてのお話は、いずれも首肯しがたいと言わねばなりません。

 それにしても、自然に造詣が深ければ深いほど、自然の治癒力への信頼や期待も大きくなり、治療方法を選択する際も、その傾向が現れるのではないかと思うのですが、この獣医さんは、むしろ積極的にガンガン注射をしたり薬剤を投与したりするようです。もちろん、それ自体は治療方針の問題ですから、飼い主の了解があれば、責められることではありませんが、矛盾は感じます。ペレットが筋胃の活動を弱めるといった問題意識を持つ人が、どうして生き物として無理のない経口摂取ではなく注射という選択を安易に出来るのでしょう?
 ・・・ペット保険のアニコムさんが、1割プランを維持出来ずに3割負担とせざる得なかった理由も、何となくわかる気がします。

 なお、生態系協会の会長でなくとも、自然的なものを尊重する思想信条の人が、アメリカ産のペレットを否定したければ、遺伝子組み替え作物の問題を指摘するのがお薦めです。「大豆(遺伝子組み換えでない)」などと、オーガニックではない加工品にも表示される日本では、それを気にしている人も多いはずですが、アメリカでは、遺伝子組み換えは品種改良の一種として特別視せず、大豆やトウモロコシのほとんどは遺伝子組み換えにより病虫害への耐性を高めるなどした品種に切り替わっており、オーガニックの栽培方法で、普通に遺伝子組み換え作物を栽培しているはずだからです。
 私は、実際問題として、それを主食として食べているアメリカ人やその他の国の人々、そして飼料として食べるているはずの日本の家畜たち、さらにペレットを食べる鳥たちにも、格別の問題を聞かないので、日本人が自分の食用にそれを遠ざけようとする方が、不思議な話だと思っています。しかし、遺伝子組み換えを忌避する人の「食の安全」の観点に立てば、アメリカ産のペレットは否定される存在ではあるのです。
 論点はいろいろあるので、自分が何を優先させて考えるのか、特に「あーだこーだ」言いたい場合は、多角的に問題意識と知識を持ちたいものだと思います。

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