広島県の安佐動物公園内「ぴーちくパーク」で飼育されていた、ジュウシマツとキンカチョウ(読売の記事では「カエデチョウ科」、記者にとってキンカチョウはなじみが薄かったのだろう)合わせて50羽ほどが、食中毒で死んでしまった。「エルシニア・シュードツベルクローシス菌」という、縮めて欲しい名前の病原菌に集団感染してしまったのだが、これは通常、病名としてはエルシニア症と呼ばれ、人畜共通感染症として知られており、特に珍しいものではない。ただ、それが、小鳥に大量死をもたらすという認識は、私には無い。聞いたこともない。つまり、この記事を読んで、何となく鳥インフルエンザ騒動などを連想して「人間には感染しないのかしら」と世間並みの漠然とした不安は感じず、「人間から感染したのかしら」「何で死んでしまったのかしら」と悩むことになった。
エル何ちゃら菌について、神戸市の説明を参考にすると、野生動物に広く分布していて、ネズミやウサギが保菌していることが多く、人間にも感染し胃腸炎その他の症状を引き起こすが、一度罹患すれば終生免疫を持つため、成人への感染は稀、といったものだとわかる。ようするに、ほとんどの大人は、成長の過程でこの菌に少量感染する機会があったため、ほとんど自覚症状のないまま、免疫を獲得しているわけだ。
その特別珍しくもなければ、人間にとっての危険性も知れているものが、なぜ小鳥に大量死をもたらしたのか。その点について、記事では「舎内のウズラやハトなどに異常はなく、同園は餌や水を介した感染ではなく、菌を持った野ネズミなどが入り込んだ可能性がある」とするのみだ。おそらく、感染ルートとして、保菌したネズミなりリスなりの野生動物が禽舎に入り、それらのフンが飲水の中に入った、といった推測が報道関係にあったのだろうが、私ならその説明に納得はしない。同園に飼育する保菌した哺乳類のフンが、飼育員の靴に付着するなどして、禽舎の飲水に混入した可能性の方が、よほど大きいと思うからだ。どういった構造か知らないが、野ネズミが入り込めるなら、ジュウシマツが飛び去ってしまうのは、幼児でもわかる理屈のはずで、それに気づけば、動物園側の説明に頷くばかりでなく、飼育員の持ち込みの可能性を感じ取って取材するはずである。
この記事だけを読むと、ウズラやハトには毒性はなかったが、カエデチョウ科の小鳥には致命的な強毒性を示したことになりそうだ。しかし、エルシニア症が格別小鳥に危険な存在となるとは、寡聞にして聞かない。もしかしたら、危険性を見逃してきたのかもしれないが、培養において37℃以上では非活性となる特性を持つ細菌が、体温が40℃に達する小鳥に、格別の被害をもたらすとすれば、やはり不思議ではなかろうか。
今回の話は、集団感染による集団死には相違ないが、その期間は12日間にわたっており、その12日間は具体的にはどういった経過で、動物園側はどういった処置をとっていたのか、知りたいところだ。もし、病鳥に気づかず、気づいても何の対処もせず、死んだ小鳥を漫然と拾っていただけなら、取り立ててニュースにするような出来事か怪しくなってしまう。なぜなら、不衛生な飲水により細菌性胃腸炎を引き起こし、「冷え込みが原因」と思えるくらいの環境で放置すれば、小鳥の場合、生き残れる方が奇跡になるからである。飲水に混入したのも問題だが、エル何ちゃら菌は低温の方が活性化する特性を持つので、水の入れ替えを怠ったり、水たまりが放置されていたり、そういったものにエル何ちゃらが入り、寒天に晒していれば、増殖し、高濃度な分だけ急性症状を引き起こす危険性は高まるはずである。それでも、暖かい場所に移して保温し(病鳥は体温を低下させるのでエル何ちゃらのようなものは増殖しやすくなる)、抗生剤を投与するという、特に病原が特定されずとも普通に行う治療を実施していれば、かなりの小鳥は救われたのではなかろうか?
「ぴーちくパーク」に文鳥がいないらしいので、難癖を付けるわけではないが、エルシニア症の小鳥への強毒性が証明されない限り、私としては、今回の件を普通に飼育が不適切だっただけとしか思えず、「哺乳類、特に齧歯類も飼育する場合は、要注意」といった注意喚起も為しがたいところである。鳥インフルエンザなどで、よく分かりもしないで不安をあおってくれたマスコミだが、動物園の認識や対応も、少々考えものだと思ってしまう。
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