「1年5ミリ以上は強制移住」はデマ?

 キュリーじゃなくて、キュウリだよ、と気づかれなくて当然のオチを残して綺麗に終わろうと思っていたのですが、チラっと見ていた内容にイラっとしたので、批判というより、ほとんど非難しておきます。

 まず、「東葛の0.4マイクロシーベルト毎時は、チェルノブイリでいえば第三区分(移住権利区域)です」とか、「福島市は2.0マイクロです。チェルノブイリでいえば、第二区分(移住必要地域)」などとするデタラメを書いて許されるのは、匿名の素人くらい、つまり、まるで無責任な存在だけと、冒頭に繰り返しておきたいところです。
 このような、そこに住む人たちを、精神的には不安にさせ、経済的にはその生産活動を妨げ、また不動産価値を落とし、さらに他地域から差別を誘発しかねない論説は、厚顔無恥による風説の流布以外の何物でもなく、無知で軽率であったで済まされる問題ではないと私は思っています。
 なぜ、毎時0.4マイクロシーベルトを一時的に観測した地域が、チェルノブイリの第3区分セシウム137が土中1kgあたり9250~27750ベクレル存在することを要件とするという「移住必要地域」になってしまうのでしょうか?火山学者ながら放射能については素人以外の何者でもない早川さんが、セシウム137を1平方メートルあたり480キロベクレルを毎時1マイクロシーベルトと換算して得られる数値をそのまま認めるとしても、半減期数日のヨウ素131や2年ほどのセシウム134などの影響が消えた後の状態なので、双方の比較はできません。そして、事故発生の当初、放射性セシウムよりも放射性ヨウ素の飛散が多いのは、これは常識だと思います。
 知ったかぶって『常識』などと言い捨てると通じない可能性があるので、いかにも素人くさいと自分でも思う例証をしておきます。まず、ウィキペディアの「チェルノブイリ原発事故の影響」の項に挙げられる研究によれば、チェルノブイリ事故で放出された放射性物質の量は、セシウム137の89、セシウム134の48に対し、ヨウ素131は1300となっており、この3核種のみで考えれば、約90%が放射性ヨウ素となります。
 この比率が、チェルノブイリに限らないことは、日本の場合は誰でも見ることができる、事故発生後間を置かない時期の検出結果から推測できます。例えば、東京都の水道水での検出結果から、3月23から26日までのそれぞれを足し合わせ(121・3.33・4.47)、比率に直せば、ヨウ素131が約94%、セシウム134が約2.6%、セシウム137が約3.5%となり、やはり、事故発生当初の放射性物質の影響力としては、放射性ヨウ素が圧倒的な比率であったことがわかります。
 事故発生当初の空間放射線量シーベルトを大きくしているのは、セシウムよりもむしろ半減期8日のヨウ素131である以上、セシウム137のみのデータと比べることはできず、比べてしまえば、素人考えでも10倍程度の過大評価につながるくらいの疑問を持つことができたはずです。現実としても、福島市役所で3月18日に、毎時12.34マイクロシーベルトを観測した空間放射線量が、その後低下し続け、6月以降は1マイクロシーベルト程度で安定しています(県庁のデータ)。これは、当初存在した放射性ヨウ素の影響が消えていった結果と考えるのが妥当でしょう。

 さて、毎時1マイクロシーベルトは危険ではないのか?と尋ねられたら、それは知りません。文系の私が知っているのは、そこに地域社会があり、人付き合いがあり、生業を持ち、あるいは土地や家などの不動産を持ち、その土地から離れがたい大勢の人たちが住んでいる、という事実のみです。しかしながら、せっかくなので参考までに少し考えてみましょう。
 1マイクロシーベルト×24時間×365日=8760マイクロシーベルト。つまり、8.76ミリシーベルト。これは、「ソ連でも1年5ミリ以上は強制移住」などと、資料の引用に対しての軽率さでは定評のある学者さんが、いつもの習癖で言い切ってしまっているようなのを見たり聞いたりしてしまえば、ずいぶんと心配になってしまう数字です。しかし、一日中野外で生活する人は少なく、屋内では影響が低減されます。一方、水や食物や呼吸によって体内に取り込むことも考えねばなりません。それぞれ引いたり足したりして、積算放射線量を割り出さねばなりませんが、面倒すぎます・・・。興味のある人は、武田さんより詳しく放射線医学総合研究所のページなどを参考に、じっくり考えられることをお薦めして、文系の私はご遠慮したいのですが・・・。
 まあ、それも無責任な気がするので、参考になるのかわかりませんが、東京の数値は放射性ヨウ素の占める値は大きいので、その影響が消えてからが大半となる福島の一年平均値に近くなるのではないかと、思い切り無茶な仮定をして計算してみます。まだヨウ素の影響が残る3月14日~4月11の東京の試算値を、そのまま365日に直せば、(水10+食物69+空気21)÷29×365=1259マイクロシーベルト。空間線量毎時1マイクロシーベルトは、計算式の東京のほぼ10倍の値で、通常時は東京並みとすれば、645-37.2=607.8、低減係数0.6を掛ければ、365マイクロシーベルトになります。従って合計は1624マイクロシーベルト=1.6ミリシーベルトになりました。
 年間1ミリシーベルトを平常時の目標値とするなら、超えてしまいますが、大騒ぎするほどかは人それぞれと言えそうです。

 なお、巷間流布する「ソ連でも1年5ミリ以上は強制移住」は、とても武田さんらしいお言葉ですが、それだけに十分な検討が必要です。出処は、おそらくソ連と言うよりも、正確にはウクライナのチェルノブイリ原発事故への対応にあるかと思います。どういったものか、ざっと調べたところでは、京都大学原子炉実験所の今中先生たちの報告書などが詳しいようです。興味のある方は、京大を褒め称えつつご参照ください。
 1986年チェルノブイリ原発事故から、5年を経た1991年に施行された法律で、
汚染濃度を4つに分け、それぞれへの対応を定めています。おそらく、ウィキペディアのチェルノブイリ汚染図の元資料にもなっていると思いますが、注目すべきは、年間被爆量5ミリシーベルトを「移住義務ゾーン」、1ミリシーベルトを「移住権利ゾーン」とする点でしょう。少しニュアンスが違いますが、まさに「1年5ミリ以上は強制移住」なのです!
 が、ちょっと待ってくださ~い!、それは実際の対処とは異なります。この法律は、セシウム137が1平方メートルあたり555キロベクレル以上の地域が年間被曝量5ミリシーベルト以上の地域、185~555キロベクレルの地域が1から5ミリシーベルトになると見なしているのです。つまり、185キロベクレルの地域で受ける年間被爆量が1ミリシーベルトウクライナの基準から見立てたに過ぎず、現実としてはセシウムなどの土壌汚染の程度で判断しているのです。
 1平方メートルあたり185キロベクレルとは、1キログラムあたりでは22日に記したように、×1000÷20で9250ベクレルと考えられます。日本では、セシウム137のみではなく、134も合わせて5000ベクレルに達した水田の作付けを禁止しましたが、誠に残念なことながら、汚染レベルが非常に高く計画的避難区域になってしまった飯館村の水田でさえ、137のみでは、前田地区4932ベクレル、長泥地区7723ベクレルであり、『ウクライナ基準』では「移住権利ゾーン」に達せず、従って年間放射線量1ミリシーベルト以下と見なされることになります。
 「1年5ミリ以上は強制移住」などと、他人の話を無批判に受け入れてしまう素直な人たちは、この『ウクライナ基準』を受け入れてくれるのでしょうか?それなら、私はハッピーです。日本の移住が必要なほどの汚染地域など、ほとんど無くなってしまい、セシウムの濃度ですべてわかるのですから、細かな年間積算放射線量など計算することもありません。
 良いのですか?この『ウクライナ基準』を何やら厳しいものと誤解して、「ソ連でも1年5ミリ以上は強制移住」などととするのは、あまりにデタラメではありませんか?正確には「ウクライナでは27750Bq/kgでようやく移住が義務化されている」になってしまうように思います。それで、本当に良いのですか?

 今現在の汚染度合いについての評価や、積算放射線量の許容値をどの程度と見るか、それについては様々に意見があって当然です。しかしながら、現実のデータや法律などの中身を理解もせず、もしかしたら確認すらもせずに、日本とチェルノブイリを比較して、汚染を強調するなど、厳に慎むべきでしょう。
 汚染度が比較的に高いのは事実なので風評被害には当たらないなどと陳腐な自己正当化を行い、事故原発の立地する県の産品を避けるように使嗾しながら、一方で、その県の子供のために除染を推奨する・・・誤った風説の流布により、デマゴーゴスの烙印を押されないように、ご注意いただきたいものです。

コメント

タイトルとURLをコピーしました