西日本に根深く蔓延している「自分たちは大丈夫」といった妄想が露呈すると、良識のある西日本の人たちは、ずいぶんと情けない気持ちになったでしょう。しかし、東日本にしても誇れたものではありません。放射能汚染に関心があり頭がシャープでも、逆のベクトルで行動力を発揮し、周囲に迷惑をかける人がずいぶんいるのです。放射性物質は無い、つまり、まったく汚染されていないと信じ込んでいるのが、西日本の一部なら、放射性物質だらけで危険とおびえている東日本の一部、といった感じです。
西日本の方は、他人事に考えて現状認識をしていないだけ、東日本の方は自分のことばかり考えて過剰反応しているだけ、だと私は思っていますが、実際、良識ある西日本の人たちには笑われるに違いないことに、ガイガーカウンターなどを持ち出し、公園やら他人の家の植え込みやらを片っ端から測定し、少々高い数値が検出されると、何が嬉しいのかまるで不明ながら、鬼の首でもとったように大騒ぎして地元行政府に訴えたりするのが流行りそうな気配なのです。その一例を、今日の読売新聞に見かけました。
「1キロ・グラム当たり1万2400ベクレルの放射性セシウム」が、どれほどのものか、後でも触れますが、少なくとも数十メートル離れたプールで遊ぶ人に影響を及ぼすことなど考えられません。そもそも、せいぜい数平方メートルのピンポイントで少々線量が高いことなど珍しいはずもありません。第一、本当に気になったり人のためと信じるなら、余計な手間を行政に押し付けるより、黙ってその放射線量の高い場所の落ち葉でも拾って袋に詰めて、仕方がないのでゴミ収集車に持っていってもらえば良いのに、と私は思います。そうした行動が多ければ、焼却灰に含まれる放射性物質濃度が高まり、当然放射線量も上がって、作業員に多少の注意が必要になりますが、『除染』とはそういうものなので、これはもうやむを得ないところです。
『除染』と書くと、何か特殊なことをするようですが、実際は水で流すか、表層のゴミを拾って捨てるだけなので(より大掛かりでも、せいぜい表土を削る)、公園の清掃も立派な 『除染』です。本当に公園で遊ぶ子供の身が心配なら、ガイガーカウンター片手にガーガー言って他人に押し付けるよりも、父母会でも老人会でも地域の力を結集して、清掃作業をするの方が、即効的です。世のため人のため、是非とも『除染』作業をしていただければと思っております。
吹き溜まりや掃き溜まりにゴミ溜まり、は当たり前にありますから、質量のある物質であるセシウムは、そうしたポイントに濃縮されてしまいます。何の不思議もありません。確かに、そのピンポイントで、何時間もじっとしていたり、何時間も比較的に濃度の高い土壌を弄ったりしていれば、もしかしたら健康に影響、つまり残留放射性物質の発する放射線により細胞が傷つくことも、絶対ないとは言えません。しかしながら、急性症状を起こすほどの濃度は、原発事故敷地内でも珍しいくらいなので、当然何キロ、何十キロ、何百キロ離れた場所ともなれば、その可能性は限りなくゼロに近いです(気にして精神的に過敏になる方が、おそらく健康に悪いです)。
東日本、特に原発事故発生地から200キロ程度離れた首都圏で、仕事でもないのにガイガーカウンターを持って頑張ってくれている人たちに欠けているのは、周囲と比較して数倍から十数倍程度のごく小さなポイントがあっても、それが普通の生活を送る人に影響する可能性は極めて低いといった科学的な常識と、より高濃度な地域でも生活しなければならない人たちに対する配慮ではないでしょうか。汚染度が比較的に高い地域で、しっかりした放射線量の監視や大々的な除染が行われるようになってから、自分たちの心配をしなければ、それは順序の異なる単なるエゴになってしまうでしょう。
知識過多で心配になる気持ちは分かりますが、残念ながら『コスモクリーナー』(アニメの戦艦ヤマトに登場する「放射能除去装置」。彼らはこれを譲ってもらうため、遥かイスカンダルへ旅立つ)は存在しないので、「セシウムあった!」と言ったところで、意味がありません。ある程度まとまった区域がホットポイントと見なされたら(何箇所か測って一定濃度以上になっている)、が見つかれば、行政的な処置を求めるべきですが、実に細々と散在するピンポイントは、普通の地域が行いうる『除染』という名の清掃活動で対処したいところです。
このように書くと、危険を認識せずに茶化しているだけのように思われるかもしれませんが、案外いろいろ知っている社会科マルチ人間の私は、心配するのも当然だとは思っています。例えば、群馬大学で火山をご研究になっている人が作った「放射能汚染地図」のようなものを見ると、一見わかりやすいので、色のついている地域に住んでいたりすれば、不安にもなるのも自然です。
しかし、学者は学者でも畑違いのそれはただの素人です。火山学者になぜ放射線の知識を求めるのか、専門外のことに時間を費やせるぐんま大学は良い職場だ(注文がない日の小売店主並みか?)、個人的にはその地図の内容以前にいろいろ感心させられてしまいます。それでも、確かに『除染』という名の清掃活動を行う際の重点ポイントを、わざわざ線量計で確認しなくとも大まかに示してくれると考えれば便利ですし、事故初期に放射性物質がどのように広がっていったかの大まかな推定として見るには、実に有用な地図だと思います。その点、専門学問の研究者でありながら、よく知らない専門外の学問にに手出しするとい、自然科学でも人文科学でもタブーなことを、なぜか平然となされるその蛮勇に感謝しなければなりません。しかしながら、日本の実に細かな空間放射線量測定(単位は「シーベルト」)と、チェルノブイリの土壌に含まれるセシウム137の濃度計測(単位は「ベクレル」)を安易に比較するなど、その情報処理には大きな問題があるようです(放射線量はさまざまの核種の発する放射線のとりあえず「総和」なので、残留セシウム137のみから推定などできないはず)。
チェルノブイリの場合、事故当時の周辺地では、一体どの程度の空間放射線量になっていたのかわかりません。放射線を発する核種はさまざまにありますから、ひとつの核種の土中濃度で空間放射線量を推定するなど不可能なのです。それを理解せず、もしチェルノブイリ周辺の土中に含まれるセシウム137の濃度と、半減期の短い放射性ヨウ素の影響を大きく含んでいる日本の空間放射線量の実測値を比較すれば、日本の汚染度を過大に評価することになってしまいます。重大な事実誤認をしないように、注意が必要です。
出典はよくわかりませんが、下のようなチェルノブイリのセシウム137の濃度を基準としてなされたという対応と、日本の現況を比較したいのであれば、空間線量ではなくセシウム137の「kBq/m2」(1平方メートルの表土に含まれるセシウム137の量)でなければならないでしょう。それが科学の初歩のはすです(数値がなければ推定するしかないですが、推定は最後の手段)。
1480~3700 kBq/m2 居住禁止区域 555~1480 kBq/m2 移住必要区域 185~555 kBq/m2 移住権利区域
日本のセシウム測定では、土1kgに含まれる値となるので、換算という名の推定が必要となります。この点について、京都大学の今中氏は「表面2cmの土を1m2にまいたとして、体積は20リットル。比重を1とすると、土壌20kgに相当」として換算する方法を提示されていらっしゃるそうですが、日本で計測されている水田の泥土で、土の比重が水と同じ「1」というのはまず有り得ないので(容積1リットル=質量1キログラムの泥土は考えにくいという意味。水田の泥土と同質の『荒木田土』の重いことと言ったら!)、とりあえず「2」まで幅を持たせて考えるのが適当だと思います(容積1リットル=質量1から2キログラム)。
4月6日現在とする福島県農林水産部の測定結果では、最も値の大きな県北の一地点で約2.7kBq/kgなので(単位をキロに修正)、27~54kBq/m2と換算されるかと思います。この数値は高いでしょうか?少なくともチェルノブイリ周辺であっても、移住の権利が発生しない、それには遠く及ばないレベルであることは間違いありません。
個人的にはこのような事実を踏まえた上で、「放射能汚染地図」を見ると空間放射線量の値が瞬間的に高くなっていた(過去形)地域でも、土壌汚染は作付け可能なほど、土壌汚染は低レベルで済んでおり(日本で水稲の作付が許されるのは、セシウムの合計5000Bq/kg[5kBq/kg])、人的にも、子供の甲状腺被害も軽微だったので(毎日新聞参照。それでも、ご両親が心配しなくて良いというものではありませんが、少なくとも、他人から差別される理由などまるでない健康体)、不幸中の幸いで、私が当初頭の中で漠然と想像したような壊滅的な広域汚染にならなかった、と判断しているわけですが、論理的に何かおかしな点があるでしょうか?
それで、川崎のプールを清掃する際に、事故発生前からジメジメとした状態で吹きだまっていた枯葉の類を、特に問題意識はないので、何の気もなく横の空き地にポイと捨てていたのを、「ガイガーカウンター突撃隊」に発見され(やはり茶化にされているようで腹が立つかもしれませんが、問題意識の高さと行動力は素晴らしいと思っています。ただ、どれほど自分では正義の行いと信じていても、他人には迷惑になってしまうことが得てしてあることに、少し考えを巡らしていただければ、聡明な方々にはご理解いただけるものと思います)、プールが使えなくなった1kg12400ベクレルという濃度ですが、1kg12.4キロベクレル、従って1平方メートルあたり124~248キロベクレルとなり、「おめでとうございます!移住権利、ギリギリ獲得でぇす!」と言いたいところですが(茶化しているのではなく、元々こういった言い回しが好きなのです)、少々お待ちください。川崎のそれは「放射性セシウム」であって、セシウム137に限られません。おそらくセシウム134との合計の数値ですから、ほかの事例から想像するに137の検出量はその半分程度、となると、「移住権利」も獲得できないレベルの汚染となります。
単位とか換算とか、いろいろややこしいものなので、慎重で有りたいものです(上記の換算、自分が間違っていない自信はありません。責任逃れではありますが、シロウトはそういったテキトーな存在なので、他人の人生に大きな影響をもたらすようなことを、軽率に公言しないように控えるのが常識で、私も怪しい「科学」で人を惑わせないように、自戒しないといけないと思っています)。
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