真空パックはダメ?3価でないとダメ?

 日々の生活に追われているとあまり突き詰めて考えられないことも多く、そもそも何か言われたり書かれたりしたことを「本当かな?」「どういったことだろう?」と、多少の疑念を持って自分で考える習慣は、なかなか身につくものではない。
 大抵は、専門めいた人がそれらしい説明をしていれば、疑いも無く信じてしまい、その断片的な知識を、自分なりに持っている知識と都合よく結びつけ勝手に納得して、それが実に合理的だと錯覚する。さらに始末の悪いことに、その妄想に近い結論を、なぜか『科学的』だなどと信じ込んで、他人にも宣伝して回ったりする。誰でもそうなるので、まったく肝に銘じて、知ったかぶりで恥をかかないように気をつけねばならない。

 さて、先ごろ、「穀物は生きているので真空パックなどにすると死んでしまう!」などという話をインターネット上で目にして驚かされた。「穀物は生きている」のか?、確かに条件が整えば芽が出るのだから生きていると言えよう。熱処理などをして発芽しないようにしたものとは違うのは確かだ。では、真空パックは空気が無い状態にして保存するものだから・・・、「あら大変!酸素呼吸が出来ないから死んでしまう!」などと考えてしまっているのだろう・・・。
 しかし、これはあまりに、お粗末な非科学的な短絡思考だ。穀物なり植物の種子の「生きている」は、生きるためのエネルギーを得るために酸素呼吸していることを意味しない。むしろ酸素などがあれば、いわゆる酸化するばかりで、徐々に劣化することになる。この劣化を防ぐために、種の周囲は殻などで守られているのである。例えばお米。外殻のついた籾状態では劣化しにくいが、外殻を取り除いた玄米状態では劣化しやすくなり、さらにヌカを取り除いた白米では長期保管が難しく、水に浸して炊いてご飯にしたら数日も持たずに腐敗する。つまり酸化しやすくなってしまったに他ならない。
 「生きている」が酸化するしないの話なら、有機物はことごとく「生きている」。発芽するしないの話なら、何十年無酸素状態で冷凍庫に放り込んでいても、たいていの穀物・種子は「生きている」。発芽出来る状態を保つには、酸化は大敵なので殻などで保護されているのであり、さらに真空なり冷蔵・冷凍の状態になれば、酸化されないのでよほど長く「生きている」。つまり、「穀物は生きてい」て酸化するので、常温で放っておけば劣化し、いずれは腐る。そうさせないためには、酸素を遮断するのが大変に有効で、有酸素運動をしているわけではない穀物・種子は、酸素を必要としない休眠状態になり、場合によっては数千年後に発芽するだけのエネルギーを保持することが出来るのである。例えば、縄文時代遺跡(千葉県千葉市検見川の落合遺跡)で発見されたハスの種子は、泥炭中に無酸素状態で埋まっていた結果、少なくとも2000年の時を隔てて1952年に発芽成長している(大賀ハス)。
 ようするに、「穀物は生きているので真空パックなどにすると死んでしまう!」などと言えば、動物と植物の違いもわからず、呼吸が劣化にもつながるものだということすら忘れはて(奥様たちは、お肌の劣化防止にあれほどご執心なのに!)、無酸素状態の種子ほど長期に生きながらえる事実も知らない、と宣伝していることに他ならない。間尺に合わない小理屈は控えたいものだ。

 続いてクロムメッキ。ケージメーカーのHOEI社は、「環境にやさしい三価クロム仕上げ」を謳い、そのサイト上で次の一文を掲げている。
 従来メッキ処理に使用されていた6価クロム化合物は人体や自然等に悪影響を与える物質であるといわれ環境基本法などの法律で環境基準値が定められています。海外の先進国では6価クロムから3価クロムへの移行が盛んにすすめられています。HOEIではいち早く、この「3価クロムのメッキ」に切り替え、「ペットへの安全性」と「環境への配慮」を大切に考えてきました。
 これを見たメッキ加工技術のことなど知るはずの無い普通の愛鳥家は、「6価クロムを使用したケージは危ない!」と連想することになる。しかし、それは大きな間違いだ。なぜなら、6価クロム化合物の危険性が高いのと、それでクロムメッキを施したケージ製品とは、直接関係ないのである。クロムメッキは金属クロムをコーティングするのであって、常識的には触媒に過ぎないクロム化合物が残存することは有り得ない。従って、6価でクロムメッキ処理をしたケージを舐めようが噛もうが、3価で処理されたものと同様に無害なのである。それでも、念には念を入れたければ、ざっと水洗いするだけで十分だろう。
 6価クロム化合物それ自体は有害なので、工場で使用した際の処理が適切でなければ、作業員に健康被害が生じたり、土壌汚染などを引き起こすことになり、その点「環境にやさし」くないと言えるだろう。しかし、それは製品そのものの有害無害とは無関係で、「ペットへの安全性」とはほとんど結びつかない。つまり、環境汚染のリスクを考え6価を3価に切り替えるメーカーは、『エコ』と評価すべきかもしれないが(特に宣伝しなくとも、ケージメーカー他社の取引先のメッキ工場が3価に変えている可能性も大きいかと・・・)、6価メッキの製品がペットに有害だったわけでもない(6価クロムメッキの製品が危険なら、御社が以前売っていたものによるペットの健康被害の苦情を受けないのかなぁ、と・・・)。その点、非科学的、非論理的な誤解をしないように気をつけたいところだ。

 以上は、文系の一般人が、たまたま問題関心を持って、自分なりに客観性をもって情報を集めて考え、得た自分に対する結論。問題意識のある人は、安易に真に受けず、ご自分でしっかり調べて、他人にも説明可能な程度の論理性を持った結論を得てもらいたいと思う(認識違いがあればご指摘ください)。

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