結論は参議院廃止

 地位は人を作ると言うが、人はその地位で測れない実例こそ事欠かないようだ。相撲取りには身技体が必要で、そのトップである横綱は神格化されるものらしい(そこまで立派に思える横綱がいた個人的記憶はない)。その元横綱が人格者でないことなどあり得ないはずで、さらに年輪を刻んで相撲界を導く協会のトップ(理事長)ともなれば、日本でも数少ない有徳人として、人倫の鑑として敬愛される人物でなかろうはずがない。
 ところが、現横綱朝青龍氏は仮病で帰国した挙句にサッカーをし、厳重に処分されればふてくされる始末。そうした力士の素行を、注意指導すべき元大横綱にして協会トップの北の湖氏は、死人が出ようと、怪我人が出ようと、横綱が素行不良であろうと、大麻を吸った未成年ロシア人力士が出ようと、「師匠の責任」として師匠である親方や力士本人を処罰しながら、監督する責任者である自分は居直る体たらく。この度、まさにおっとり刀で(ドーピング検査などしたことがないのだ!)、大麻所持で逮捕されたロシア人力士と同郷の友人であった兄弟力士から、抜き打ち検査という実に正しい手段で大麻吸引の反応が出るや、その弟が己の弟子であったがためか、本人が否定していると言った愚にもつかない理由で処分保留をはかって総スカン状態になり、ついに辞任となった。
 この大麻騒動では、兄弟の兄、露鵬という四股名だった(昨日解雇された)私に言わせれば暴力沙汰でとっくの昔に解雇されていなければならなかった人物が(この際大甘な処分に止めたのも北の湖氏の意向であろう)、「大麻など見たこともない」と大勢のメディアの前で言い張り、その様子を見た者が「嘘をついているようには見えない」とコメントしていたのは実に笑止であった。昔、一応マスコミの人間のはずの田原総一朗氏が、サリンを製造し無差別殺戮を引き起こしたカルト教団の幹部と対談し、「嘘をついているようには見えない」といった印象をもったそうだが、そういった人は、嘘をついているかいないか判断する洞察眼が自分には欠如していることすら理解できていないだけだろう。己の不明を自覚して、さかしらに見た目で他人を判断しないように自戒するべきだが、こういった仁はいくら見誤ってもを、悟らないから始末に悪い(もっとも真贋の洞察眼など無いほうが幸せ)。人の言の虚実に対する自分の印象など、口にしないほうが利口に見えるだろうと思う。
 しかし、この露鵬だった人物は、大麻所持で逮捕された未成年元力士君の兄貴分で、ごく親しい間柄だったことは周知の事実であり、弟分が所持で逮捕されていながら、大麻をまったく知らないと言い切るだけでも怪しいと思わないほうがおかしいのだ。そもそも未成年元力士君は、健気にも他の力士の関与を否定、大麻などを買うような界隈への出入りは必ず一人で行っていたような供述をしていたらしいが、「一人で」を繰り返すのは、複数で行っていたことを隠すためだろう、くらいに考えるのが忌まわしい大人の知恵のはずだ。つまり、こうした客観的事実を知っているなら、あのような当事者の記者会見など白々しい以上にふてぶてしく見えて不快なだけのはずなのだ。
 この間、露鵬だった人物の師匠である大嶽親方の態度も、まったく愚かしいものでしかなかった。この人物は、現役時代も張り手が多い痛い力士であったが、引退後はさらに痛々しくなったと言わねばならない。いわく、「弟子は子供と一緒。子供がやってないと言うから信じるしかない」。何と素晴らしい師弟愛、親子愛であろうか!しかし、それは公に発してはいけない言葉で、発すれば『親馬鹿ちゃんりん』と嘲笑されるものであることにすら気づかないのだから、世間知らずの相撲馬鹿と言わざる得ない。
 親は子供の言うことを、すべからく真実だと願うべきだ。盲目に信じるのではない。願望として抱くのだ。そして、普段から親に対して嘘をつかない親密な関係が親子に存在するなら、それはほとんど真実であり続けるだろう。親に信頼されれば、もしくは親に嘘が通じないと理解していれば、ほとんどの子供はそれを裏切らないようにするはずだ。何しろ子供は、まだ世知辛くない。しかし、親子関係がちぐはぐなら、親をだますのは子供にとって日常茶飯事になるのは世の常だ。ろくに洞察力もなく、闇雲にかばい立てしてくれるなら、そんな存在は利用しなければ損だ。本来そのようなものを超越してあるべき親子間が、損得関係となってしまい、子供は親をだまして得することばかり覚えるようになってしまう。他人に対して己の弟子なり子供の潔白を主張する前に、まず、己と弟子の普段のあり方を振り返るべきだろう。もちろん真実と願うのは親心だが、そのような私的な願望を公に表明出来るか、少しくらい考えてみるべきだ。
 昔、ビートたけし(北野武)氏が、出歯亀(のぞき趣味のこと)週間写真誌の編集部に手下を連れて暴力的威圧に乗り込み逮捕されたことがあったが、その際彼の母親が取材に対して「死刑にしてください」と涙ながらに小さな頭を下げていた姿は、実に奥ゆかしかった。彼女は、この出来の悪い末っ子(と言うより兄たちが一般的な基準で見る限り優秀すぎた)を眼に入れても痛くないと思っていただろうし、何をしでかそうとどこまでも面倒をみたに相違なく、何があってもどこまでも信じる覚悟は当たり前に身に付けていたはずだが、世間様に対しては突き放して言い、迷惑をかけて申し訳ないとひたすら頭を下げるのである。これが、本来あるべき親心だろう。母親としての私的な立場では徹頭徹尾子供を信じて迷わなくても(裏切られてもやはり信じる。つまり個々の行動など超越して、その子供の存在全体を信じている)、公の立場ではそれを表に出さないものなのだ。
 さて、結果、受動的な吸引ではあり得ない数値の大麻反応が出て、兄弟力士は解雇されて元力士となり、弟の師匠の北の湖氏は理事長を辞任、兄の師匠の大嶽氏は役職を解かれた。当然であろう。ドーピングで引っかかれば即処罰されるのがスポーツ界では常識であり、その前提もなしに検査を実施したのなら、頭が悪いどころか非常識であり、検査する人たちに対して非礼になってしまう。処罰する気がないなら、はじめから検査などやらなければ良いのだ。また、監督出来ず何も言える立場ではないにも関わらず、『親馬鹿ちゃんりん』全開で、奇怪な弁護士を表に出して、あり得るはずがない謀略説など振り回せば(検査に立ち会っている親方衆や医師たちに対する明らかな名誉毀損になる『被害者』の主張を、まったく一方的にメディアの前で話しまくる軽率さには驚かされた。この奇怪な弁護士によれば、尿を採取する紙コップは自分で選べるはずなのに、某親方から渡されたそうだ。では、その親方がまず間違いなく持ち出しなど出来ないその検査用の紙コップに、その会場内で大麻反応が出るアンプルを塗りつけたと言いたいのだろうか。巨体を揺らせてさぞ大変だったことだろう!)、検査を実施した協会に対する誹謗行為と見なされて処分対象となるのは当然であろう。自分も協会の一員であると言う、公としての己の立場を全く自覚せずにべらべらしゃべった(しゃべらせた)報いである。

 自民党に所属する参議院議員山本一太なる人物も、その地位にあってもその地位・職分を心得ないことを露呈してしまった。
 この参議院議員氏は、安倍晋三氏が内閣総理大臣になる時は宣伝にこれ努め、安倍氏が辞めるや、父以来の主筋であり、己の選挙区の衆議院議員でもある福田康夫氏の支援者となり、その内閣では外務副大臣になっていた。この行動には節操がないような印象を持つ人も多いかもしれないが、それくらい融通が利かなければ政治家として生きていくのは難しいだろう。褒められないとしても、否定は出来ない。もちろんテレビで小さな三白眼をさらすのも別に問題とはしない。しかし、今回参議院議員でありながら総理大臣となる前提を持つ自民党総裁選に出馬しようとしたのには呆れ果てた。これは暴挙であり、日本の民主主義、議院内閣制を理解している人間なら、慎んでやってはならない行為だ。
 もちろん参議院議員が総理大臣になれないとする規定はない。しかしながら、衆議院の解散権を持つ総理大臣は、参議院議員が担える職責であろうはずがないのだ。国政の最高機関である(はずの)衆議院が自らの意図に反したため、総理大臣が解散して民意を問う、その際総理大臣自身も衆議院議員(代議士)として選挙により国民の審判を受けるのが、日本の民主主義政治の根幹であろう。これが参議院議員が総理大臣ならどうだろう。己の都合で解散させながら、己は六年間身分を保障された地位にあって高みの見物を決め込むわけだ。これこそ、独裁者の所業以外の何物でもあるまい。
 当然ながら推薦人は集まらず総裁候補にすらなれなかったが、山本参議院議員が日本の議院内閣制を理解出来ず、そこに潜む危険性の認識が欠落し、図らずもそれを露呈させてしまった。今回本来の代議士(いつ何時でも選挙により民意を代表する議員)である衆議院議員でありながら、山本参議院議員を推した者も、また同類と見なさねばならず、以後そうした不見識の持ち主として見られるものと思われる。実に軽率千万な振る舞いと言えるだろう。
 なぜこのような日本の民主主義を危険にさらすような行為が平然と行われようとし、看過する者も多いのだろうか?おそらく長らく参議院は衆議院のカーボンコピーと呼ばれ、衆議院で決まったことを追認するだけの状態が続いたので、日本人には有権者も政治家すらも二院の違いをわきまえていない者が増えているのだろう。何しろ、先の参議院選挙で野党第一党を歴史的大勝させ、6年間の長期にわたる可能性のある「ねじれ現象」を招いたのは、我々国民なのである。
 与野党の逆転をさせたければ、衆議院選挙で意思表示すべきだとは以前も書いた。しかし、事態は政治家にまで及んでいる。総理大臣になりたければ、衆議院議員になってからでなければならないと言う、イロハのイの字の暗黙の了解すら踏みにじられかねないのだ。もはや暗黙の了解が機能しない以上、6年間も非改選で独裁者たり得る議員によって国政が停滞するような制度は、早急に改めるべきだろう。端的には、参議院を早急に廃止して一院制に改めることを真剣に検討すべきものと思う。

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