さらにニューカマー「ムツ」
平塚、前身がフジタでベルマーレ平塚と称したサッカーチームは、湘南ベルマーレと名前を変えたが、茅ヶ崎市出身の友人によれば、相模川(個人的には馬入川の方がしっくりするのだが)を越えたら湘南とは言わないそうだ。この解釈に従えば、湘南とは藤沢市と茅ヶ崎市という、かなり限定的な地域呼称ということになる。何しろ藤沢の東隣の鎌倉市民は、「鎌倉は鎌倉であって湘南ではない!」と断言するはずの地域なのだ。しかし、元々湘南とは、平塚の西隣の大磯あたりの海岸風景が、中国の湘南地域に似ているとされたのが起源らしいので、むしろ本家は相模川の西側だろう(友人は絶対に認めようとしなかった)。
さて、「しょうなん」という言葉の響きにはいかがわしさしか感じない私は、相模川の西の海っぺりも、東の海っぺりも、湘南と言いたければ言えばいいだけだと思っている。別段海っぺりの地域呼称など何だって知ったことではない。ただ、ベルマーレ平塚の時の方が強かったのに・・・、とは思う。
そういった人間が初めて平塚駅に降り立ったのは、サッカー観戦のためでも、競輪観戦のためでも、平塚七夕祭りのためでもない。目的はただ一つ、文鳥探しなのであった。本当は忙しいのだが、もし暇でも長居をしないことは確かだし、7月になればお祭りの竹飾りが邪魔になるだろうと、わざわざ前倒してやって来たのであった。
何しろ、事前調査によると、この平塚駅周辺には、文鳥の存在が期待出来そうなお店が5軒もあるのだ。正午に家を出て、横須賀線(スカセン)を東海道線(湘南電車)に乗り換え、平塚駅西口へ降り立った。片手にはマス箱の入った保冷トートバッグが握られていたのであった。
・・・それで、結果から言えば全滅。
西口から徒歩15分、近くに検察庁があるらしい店は、鳩小屋がある飼料屋と言って良く、店内に文鳥が数羽見えたが、飼料袋が散乱していて近づけない有様だ。遠目にも、桜は1羽しか見えず、この店で買う気は起きないのでさっさと引き返す。
2軒目は平塚駅南口の商店街にある小鳥屋だが、店内は必要以上に薄暗く十姉妹が数羽いるだけの体たらくであった。次。
3軒目は南口の百貨店7階にあるペットショップだ。何だか、昔は百貨店とかデパートの屋上で見かけた感じの店で、奥に文鳥がかなりいた。見れば、白文鳥はみな立派だったが、桜は白い差し毛が多く、なおかつ換羽中のものが多かった。しかも、この店の価格設定は特殊で、オスメスの価格差が激しい。桜はつがいで6825円と手頃だが、1羽だとオス2940円、メス6090円と書いてある。メスが割高なのは普通だが、倍以上と言うのは初めてだ(白文鳥は、つがい7875円、オス3570円、メス6930円)。オスを探す時には良いが、これほど露骨な設定の中で、メス1羽を買う気にはなれないし、万難を排しても求めるほどの価値も見出せない。次。
4軒目は、駅の南口から東へ歩いていった先のホームセンター内にある。ここは、ミナとシズの出身店であるセキチューみなとみらい店内のお店と同系列店だ。しかし、品揃えや価格設定は統一的ではなかった。中雛のみで桜3980円、白4980円であった。次。
5軒目は、南に歩いていった先の小さなペットショップで、生体は陳列されていなかった。しかし、小売の見かけとは別に、この店は卸売を行っており、おそらく生体も卸し用のものが2階にいるらしい。かなりやかましく鳴き声が聞こえるのだ。ここで、動物取扱い業で、実は取引もある私は、見学させてもらおうと思えば出来たと思えるが、面倒であり、気に入ったのがいない場合、家に帰るまでの体力も無くなりそうなので止めた。
かくして、ヒラツカ作戦は失敗に終わったのであった。
手ぶらで戻るのは嫌だ。そこで、湘南電車に揺られつつ、藤沢から江ノ電で鎌倉に回ろうと考えた。しかし、土曜日に鎌倉はうっとうしそうなので、「金沢八景」に向かうことにした。カナに似ていた方が良いなら、同じところで買うのが一番ではないか。
大船で下車し、金沢八景行きのバスに乗る。中途半端な田舎のバスは、料金が均一ではなく、行く先を運転手に告げてそこまでの料金を前払いする形式であった。300円。
途中ちょっとした渋滞と、なぞの外人部隊(朝比奈の山でハイキングでもしていたらしい)の乗車によりバスは遅れ、金沢八景駅手前のバス停まで、1時間近い時間を要した。
ひとしきり店内の様子を探ると、ヒナから成鳥まで、かなりいろいろな文鳥がいた。売れ残っているのだろうか、・・・横浜近辺の文鳥好きは、この店が地上に存在するうちに行くべきだと思いつつ、桜文鳥のメスをくださいと、店主のおじいちゃんに言う。
店主、おそらくペアを分けるよりも、多少不確かでもメスになりそうな若い文鳥の方が良いだろうと考えたに相違ない。生後4ヶ月頃でヒナ換羽中の5、6羽が入った中で、1羽いた桜文鳥(残りは白)を、あれはメスだと言う。私、ほんの一瞬考えた。
『あの段階でメスかどうかなどわかるはずはないが、50%以上の確率でメスになるのは間違いない。また、あの段階で卸されるはずはないので、おそらく売れ残りの手乗り崩れで、あっさり手乗りに戻るだろうし、間違いなく若い。そして、店がメスとして売るからには、オスなら交換を要求すれば良いだけだ』
少し白い羽が多い気がしたが、ろくに見もせず買うことにする。店主、クチバシを見せて色が薄いし形もメス的だというようなことを説明したが、軽く聞き流して、
「万一、オスだったら取り替えてくれますよね」
と念のため釘をさしておく。
4500円を支払い、飛ぶように帰る。名前は、六浦(ムツウラ)で『おむつ』が取れていないから「ムツ」で良いだろう。
とりあえず3日ほど隔離して様子を見てから、今夜からハルと別居させたアイと同居させようと思う。
なお、体重は26グラムであった(書き忘れたようだが、アイは5200円で購入し、こちらも体重は26グラムであった)。
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