先日、夕刊のない点が素晴らしい産経新聞のコラム(5月21日産経抄)に、サザンオールスターズの活動無期限休止の報道に対し、「『オレの青春は終わった』と涙目になった白髪交じりの同僚もいる」とあって、とっくの昔に青春など終わっていたのに気づかないだけのくせに厚かましい、と笑ってしまいました。
若者迎合でカラオケで歌いたいだけのおっちゃんではなく(中途半端で迎合していない。若い奴など気にせず好きな歌を歌えばいいのに。私なら場を壊すために昔から「お富さん」だ)、本当にファンだったのなら、アルバム『KAMAKURA』後の80年代半ば、桑田さんがソロ活動に専念し事実上解散状態だったことくらいは知っているはずです。90年代半ばにも「関口メンバー」の離脱状態で休止していますし、デビューシングルの『勝手にシンドバッド』が世に出たのが1978年ですから、ほぼ10年周期にそういったことが起きていました(他にもいろいろと・・・、一年中全国めぐりしているようなバンドではないのです)。ようするに、今回の活動休止は特に珍しいことではなく、それ自体を青天の霹靂のように感じるのはおかしな話で、コラムニストは何も知らないだけのような気がします。
ただ、今回の活動休止は、より実質的解散含みのような印象は受けています。
もちろん私は音楽にとても疎いわけですが、桑田佳祐さんは高校の大先輩でもあるし、原由子さんは出生地の近くのてんぷら屋さんの娘さんなので、シンパシーを抱いていました。何しろ歌われている曲は、よく知っている地域や情景なので、1998年の『さくら』までは、しっかりアルバムを買って聞いていました。
その後、2000年にどこが良いのか個人的にはほとんど理解不可の『TSUNAMI』が大ヒットするは、CMやらドラマの主題歌向きの単発で脈絡がなくなったのかアルバムは発売されず、2005年に最終アルバムの『キラーストリート』が出された頃には、すでにげんなりとしていて買う気力が失せていたのでした。
何しろ『さくら』で個人的に感じたのは、桑田さんより原さんのボーカルとしての才能だったのですが、その後、見もしないくだらないドラマの主題歌やらCMで桑田さんのサビを連発されたら、ひねくれ者はつむじを曲げてしまうわけです。
※ 中古で『キラーストリート』を注文し、昨日届いたので今聞いているところです。せっかくなので、今更ながらの勝手な感想を。
まとまり過ぎている気がするので、2枚にしないで無理やり1枚に詰め込んだほうが面白かったのかもしれないと思いました。同じ2枚組みとしては、『KAMAKURA』のみんなで一緒に手仕事風味が、洗練され大人しくなった感じでしょうか。『KAMAKURA』にしても大人しく感じたものですが、荒削りを無理やり大人しげにまとめたのと、洗練されたものを職人的にきっちりまとめきった違いがあるような気がしました。面白いのは、荒削りの方でしょう、
なお、「セルフライナーノーツ」として桑田さんによるそれぞれの曲についてのコメントがありました。これは桑田さん的サービス精神だと感心しながらも、聴いた限りがすべての素人には楽屋裏の細かな話は理解不能なため、残念ながら読み飛ばしました。
神奈川県南部、「湘南」に対して他地域の人々が持つイメージはかっこいい、つまり二枚目なもののようです。その湘南をイメージさせるバンドでありながら、どこまでも三枚目であり続けるのが、サザンオールスターズなるバンド、桑田佳祐なるボーカリストの恐ろしくも偉大なところだと思っています。
あの芋洗い海岸に押し寄せる人々に、アイスクリームだの焼きもろこしなど売りつつナンパするローカルな地元民目線、実際は材木座(ザイモクザ)であり稲村ケ崎(イナムラガサキ)であり片瀬西浜(カタセニシハマ)であり砂混じりの茅ヶ崎(チガサキ)であり、いずれの語感もうら寂しい晩夏の海の家のそれでしかなかったはずの海浜の町々。藤沢、茅ヶ崎、あのオレンジと緑の湘南電車(東海道線のローカル名)が西日の中を走る姿がお似合いの地域。しかし、最近は、藤沢辺りの湘南何たらいう名前の外観ばかり小洒落たマンションを買って、「私も湘南の人間だわ」などと思い込んで、あの海風の塩辛さも知らないような手合いが増えているようです。
あの砂混じりの塩辛さ、何とはない地元のもの悲しさと言うのも、昭和などとっくに消えた平成も20年の現在にあっては、すでに記憶の中の感触でしかないのかもしれません。そうであるなら、天命を知る齢五十を超えた不世出のボーカリストが行き詰まりを感じ、それが時とともに巨大なものとなっていくのも当然でしょう(2003年に北鎌倉の建長寺で限定ライブをしたと聞いて、私は過ぎ行くだけの時を感じました)。行き詰まりを打破出来ると思えなければ、オールド湘南バンドをこのまま解散したところで、何ら不思議はないような気がします。クリエーターとして枯れていない限り、素人臭さが味わいのバンドで実感のない過去を歌うだけでは済まないのでしょう。
件の産経抄氏は、桑田さんを「政治家に向いている」として「桑田サウンドを流しながら選挙カーが走るのも湘南らしくていい」などと書いていましたが、「本業の夢に破れ」なければ、議員に立候補するような馬鹿な真似はしないものと信じています。
過去「ドラマの主役にゃ燃えている」歌手を揶揄して、自分はとりあえずそういった真似はしなかった、それより以上に、自分の過去のただの歌詞が政治家転進といった挙など許すはずがないでしょう。本業の夢をさらに追っていただきたいものです。
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