文鳥の飲み水に「ミネラルウォーター」を使っている方が、某動物病院のホームページの鳥の飼育に関するページに、「ミネラルウオーターは与えないでください。結石の原因になります」とあるのを見て、心配になったとの事でした。
そこで私が考えた問題点は次の2つです。(1)文鳥に結石が出来るのか。(2)ミネラルウォーターが結石の原因になるのか。
まず、結石といった場合、人間では尿路結石が多いかと思いますが(数年前家族が音波での破砕手術をした)、体の構造や排泄システムが異なる鳥類では、尿路結石はあっても極めて稀ではないかと思われます。何しろ鳥類は、基本的には液体ではなく固体の尿酸を糞に付加して排泄しますから、液体が流れる細い管を固体が塞ぐという事態が起きにくい体の構造なのです。また、内蔵の中に結石があったとの話も、寡聞にして知りません。
次にミネラルウォーターと結石の関係ですが、とりあえず人間の結石において、ミネラルウォーターを飲んでいるか否かが問題となることはないと思います。確かに単純に考えると、摂りすぎたカルシウムの余剰が固まって結石になりそうなものですが、科学的な事実としては、「カルシウムパラドックス」と呼ばれるように↓、カルシウムの不足によってかえって結石の形成が促されるので、むしろカルシウムを水道よりも含むようなミネラルウォーターは結石予防に役立つと考えるのが、科学的であり論理的なのです。
『予防医療.com』さんの参考ページ
http://www.yobou.com/contents/rensai/report/r07_02.html
さて最近ペット、と言うより犬猫用とされ市販される水は、カルシウムなどミネラルをほとんど含まないものが多いようです。
実は、なぜそのようにしたがるのか、私は一年ほど前から不思議に思っていたのですが、今回の話を元に方々をざっと覗き見して、どうやらカルシウムの過剰摂取により結石が生じるとする、人間の医学では否定されたはずの話に基づいていての動向と判断するに至りました。
しかし、飼い犬や飼い猫に結石が増えているとしても、それを飲み水に起因すると考える根拠が何かあるのでしょうか?むしろミネラルウォーターを与えるような細心の注意が、かえって過保護なものになり、必要以上の栄養を与え、なおかつ運動不足にさせていなかったか、つまり生活習慣を先に考え直すべきではないでしょうか。
とりあえず、水の中のミネラルの多寡で結石になったりならなかったりするなどと安易に断定し、ミネラル分の少ない軟水さえ飲んでいれば大丈夫などと広告するのには感心できません。もし、それが人間のものであれば、必ず問題になる行為であり、安易に飛びつく前に、いずれの動物の飼い主も考えないといけないでしょう。
論拠不明な非科学的な話を削れば、軟水を薦める理由は次のようなものになるはずです。
「ドックフードやキャットフードには、栄養学に基づいて必要十分なミネラルも含まれているので、それ以上のミネラルの摂取は過剰となり結石を起こしかねない。したがって、ミネラルを多く含む硬水を与える必要はなく、ミネラルを含まない軟水の方が望ましい」
繰り返しますが、ミネラルの過剰で即犬猫が結石になる証拠は何一つないはずです。むしろ、人間の医療ではカルシウム不足が結石の要因とされている以上、人間の医療の援用や転用以外の何物でもない犬や猫などのほ乳類に対する考え方としては、その科学的結論も受け入れなければおかしいのではないでしょうか(冷静に見れば、専門性のある獣医さんの「尿石症」や「膀胱結石」の説明として、カルシウム摂取を挙げるものはないのはネット検索でも分かるはず)。
確かに、毎日必須の水により、絶えず過剰、もしくは吸収可能量以上になることが確実ののミネラルを供給し続けることが(カルシウムを腸管からの吸収するには、ビタミンDなどが介在しており、これが不足していれば吸収されない。つまり、ビタミンDによって吸収量がコントロールされている)、結果として健康に影響しないとは限りません。しかし、それは現時点において、不確かな可能性の一つに過ぎないのではないでしょうか。「起こしかねない」は推量でしかないのです。そして、普通の飲み水としては珍しい超硬水が問題ありなら、人為的な超軟水の常時使用も、問題がある可能性ももゼロではありません。その点、万一、前提条件である食餌にミネラル分が十分でなければ、ミネラル不足で多くの健康問題が発生するのは明らかと言えます。それは現実に、小鳥(セキセイインコ)飼育に関して、ヨーロッパの軟水地方での甲状腺障害(ミネラルの一つヨウ素の欠乏症)という形で現れたこともあったのです↓。
http://www.cam.hi-ho.ne.jp/bun2/mondai/mondai10.htm
ところで、「ミネラルウォーター」と言われたら、皆似たり寄ったりだと思ってしまいますが、実は中身はさまざまで、一般的な水道水よりもミネラルを含まないものも普通に存在します。例えば著名な商品の中でも、『コントレックス』のようなミネラル含有量が非常に多いものも(硬度1551mg【300mg以上が硬水】、100ml中カルシウム48.6mg)、『サントリー天然水(南アルプス)』のようなミネラル含有量が少ないもの(硬度30mg【100mg未満が軟水】、100ml中カルシウム0.97mg)もあるのが現実です。前者は後者の50倍もミネラルを含有しているわけです。
日本の水道水の硬度は60mg程度らしいので(地域によって異なるが硬水地域はほとんどないと思われる)、「ミネラルウォーター」と言っても、水道水よりもミネラル分が少ないものも存在あるのが現実と言えます。従って、カルシウムなどのミネラル分が多い飲み水が結石を引き起こすと思い込んだとしても、「ミネラルウォーターを与えないでください」などとするのは誤りなのは明らかでしょう。その立場であれば、軟水のミネラルウォーターなら薦めなければならないのが論理的帰結であり、正確な表現のはずです。
以上、ようするにミネラルウォーターによって結石が出来るなど、信じるに足りる話ではないと言えます。
とりあえず使用したいのであれば、商品の広告を鵜呑みにせず、「ミネラルウォーター」と一括りに考えず、軟水だとミネラルが含まれず、硬水だとミネラルを多く含むことを前提にして、例えば自分の飼っているペットの食べ物にミネラルが不足していると感じたら硬水系のものを、十分であれば軟水系のものを、どちらでもなければ、とりあえずあまり硬度が極端なものは使用しないといった心遣いというか、論理的整合性のある冷静な判断をするのが、飼い主としてもっとも賢く無難な行動ではないかと思います。
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