シズは手乗り、「アト」は大きからず

シンにせまられるシズ
シンにせまられるシズ

 朝、シズをカゴごと移動し、キューたちが外に出ている隙に入れ替える。気づかずサイをのぞき見しようとするキューに、「こっちに女の子がいるよ」と耳打ちをして、シズのカゴに近づける。好感触。興味しんしんで近づきカゴにへばりつくので、それではと指に乗せ、カゴの中に誘う。・・・キュー攻撃せず、シズは大喜び、あっさり同居成功。
 しばらく様子をうかがっていたが、巣やブランコをめぐって小競り合いをする程度で、お互いに恥ずかしがるしぐさ(止まり木にクチバシをこすり付ける)が見られる。カゴに指を近づけると、カゴ前面にへばりついたキューが威嚇してきて、いつものようにさほど甘くない噛み方をするが、なぜかシズも一緒になって同じ事をしようとする。・・・手乗りなのではないか、と疑惑&期待がよぎる。
 昼過ぎ、キューの攻撃がやや強くなる。巣における自分の優位を保とうとシズを小突き出すのだが、シズも負けずに体ごとつぼ巣に飛び込む。騒々しいのでいじめられていたのか・・・。バイオレンスな夫婦になりそうだ。
 夜、放鳥時間。シズは窓に街灯よけのすだれをかける音に驚いて飛び出してきた。うまく飛べず、不時着したので、目の前にそっと手を出してどうぞと誘うと乗ってきた。・・・やはり餌づけ経験があったようだ。テーブルに下ろしたシズに、執拗にゴンが威嚇し続けたのには驚いた。隣に恋敵が出現し、心中穏やかでなかったようだ。
 その後、いろいろなオスに付きまとわれつつ、徐々に室内飛行に慣れていったようだ。積極的に人間に近づこうとはしないが、最後も指に乗って帰還した。実に世話いらずだ。

 シズが手乗りである理由は、次のような事情によるものと推察する。
 シズは6月生まれとされている。これは昨年秋から続く繁殖期のどん詰まりに生まれたということを意味するので、はじめから適当に成長させてオスメスの区別がついてから売られる予定の存在であった必然性が大きい。なぜなら6月生まれでは、通常9月から始まる繁殖に間に合わず、ヒナで出荷するには蒸し暑く時期が悪い。また、そもそも生産のための種鳥として、繁殖終盤に生まれた春仔は敬遠されるので(春仔は秋仔より弱いという伝説がある。当然ながらそうとも言えない)、適当に大きくしてから成鳥として出荷するのが、最も効率的に思える。その際、生産農家としては、7、8月は親鳥を休ませる方向性を持つので、育雛で体力を低下させたくはないといった事情もあり、親鳥から離して餌づけするのではなかろうか。
 一般の飼い主から見れば愛玩動物でありコンパニオンアニマルなので、より仲良くするために餌づけをし手乗りにするのだが、生産者としては、経済動物という観点から餌づけが必要になることもあるのだ。つまり、荒鳥として購入した文鳥が、お店で売れ残ったヒナでなくとも、実は幼時に人間から餌づけされており、結果案外手乗りになってしまうことがあっても、何ら不思議はないのである。
 この生産者なり繁殖家による、経済性を重視した幼時の餌づけ行為を、消費者である一般の飼い主が喜ぶべきか悲しむべきかは微妙なところだ。種鳥として残すつもりがないヒナに、どういったエサを与えているかは怪しいので、丈夫な種鳥を求める立場では、手放しで喜べる話ではないのだ。従って、なかなか慣れない荒鳥と遭遇した時は、親鳥にしっかり育てられた文鳥と見て喜びたい。一方、手乗り同然になる「荒鳥」なら、ストレスなく円滑にこれからの生活を送ってもらえることを喜ぶことにする。結局ものは考えようで、どちらでも良いのである。

 さて、ヒナたち。ポンとテンは元気で、テンは今日初水浴びをした。
 そして「アト」。放鳥中に巣籠りするシンを排除して、箱巣ごと交換の上で引き継ぎ、フゴに移して育雛室に入れた。放鳥後に行なった餌づけでは一口しか食べず、体重も23gどまりであった。思ったほど大きくない。産座がすり鉢上のため大きく見えていたのだろうか。しかし、口は大きい。ヒナの体格は、給餌スポイトの『育て親』と口の大きさとの比較で体感できるように思える。テンは口が小さく、ポンは普通、それでいくと「アト」は大きい。これから重量を増すのだろうか。明日からの食欲に期待しよう。

孵化16日目の「アト」
孵化16日目の「アト」

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