イチローMVPとプロ野球の凋落

 白状すると、幼い頃、東京ジャイアンツのファンでした。王貞治さんの756号あたりが、最初の記憶となり、小学生の頃はジャイアンツの帽子をかぶっていたわけです。それがどうでも良くなったのは、いつのことでしょう。確かに、少年野球ではなく少年サッカーをしていましたが、当時天皇杯くらいしかテレビ中継をしない社会人サッカーに、さほど関心はありませんでしたので(今のような何台ものカメラで中継するのではなく、枯れ芝の上をボール持って動くのを俯瞰した画面だけで、例えば与那城ジョージとラモス・ルイの区別がつかず、映像的に迫力が無かったのです)、他のスポーツに興味を奪われたわけではありませんでした。
 いつの間にか冷めてしまったプロ野球熱をはっきり自覚したのは、1986年の広島カープの優勝の時でした。この年、ジャイアンツは勝ち数で上回りながら勝率で及ばず、ゲーム差ゼロで優勝を逃すことになったのですが、ファンのはずの私は、まるで悔しくなかったのです。その年のペナントレースが面白いと思えず、応援にまったく熱が入らなかったからですが、それ以来、日本のプロ野球はなぜつまらないのか考えるようになりました。
 ダラダラと続く試合展開、せせこましい采配、無知蒙昧な親企業のオーナー、社会人野球と変わらない企業スポーツ体質、試合も見ずに鳴りもの応援する応援団、へたくそなアナウンサーと不勉強な解説者、数え上げればきりがなく、どれをとっても吐き気がするくらいなものです。しかし、プロ野球機構という組織が有名無実である点が、すべての根源だと思っています。個々のオーナー企業には、プロ野球全体を盛り上げる意識は欠片も無く、球団名についた親企業の名前の連呼で広告になるといまだに信じている程度の見識ですから、プロ野球全体がファンを惹きつけることなど無理なのです。
 日本では、「職業選択の自由」があるから、選手が自由に球団を選ぶべきだといった主張が、一般の「ファン」を自称する人々の間にも存在しますが、これはプロ野球を自滅させる危険思想以外の何物でもありません。もちろんプロ野球選手という職種を選択するのは自由ですが、特定球団に行く個人の自由など認めたら、プロ野球全体の戦力均衡など出来るはずがありません。人気チームばかりに優秀な選手が集まり、そのチームが優勝する緊張感に欠けたペナントレースなど、見放されるのは確実なところです。
 もしプロ野球のファンだと言えるなら、個々の球団の興廃より以上に大切にするべきものがあるはずです。ところが日本には、オールスターのファン投票ともなれば、自分の応援するチームの選手名を書き連ねるような輩が多いのはどういったわけでしょうか?奴らは野球ファンではなく、社会人野球を応援する同じ会社の社員と同じ感覚しか持ち得ていないものと思います。

 さて、正力松太郎さんたちの努力によって誕生し、沢村栄治さんなど数々の名選手を輩出し、輝かしい歴史に彩られた日本プロ野球の寿命を、「あと10年」と私が勝手に予測したのは、2000年初めのことだったと思います。すでに野茂さんがアメリカのプロ野球MLBで活躍していましたが、その頃日本で首位打者であり続けたイチローさんの移籍が濃厚になっていたのを考慮して出した結論でした。
 走攻守揃った野手、なおかつ速球も上手にさばく彼が、大リーグで活躍しない理由が見当たらず、活躍すれば登板日以外は話題になりづらい投手以上に注目されるることが予想されました。毎日注目して見れば、アメリカのメジャーと日本のプロ野球の違いはより明らかになり、志のある一流選手が彼に続くに相違なく、そうなればプロ野球はスター不在となるので、求心力をさらに失って崩壊すると考えたわけです。
 頭の固いプロ野球OBが、いくらテレビで寝言を繰り返しても、現状の日本プロ野球よりも、MLBの方が数段魅力的なのは紛れも無い事実です(薬物など負の側面もありますが)。プロの野球選手なら、試合観戦の楽しみ方を知っているたくさんの観客の前で、自分の実力を発揮し、結果的に天井知らずとも言える年棒を獲得したいと望むのは当たり前です。、物心両面、金銭だけではなく、やりがいの面でも、日本のプロ野球は負けているのでうから、「日本人なら日本で野球しろ!」などと、まともな人間が他人に言えるものではないでしょう。

 それでも、さすが歴史のある日本プロ野球は、あと2、3年で無くなることは無いかもしれません。しかし、5、6年、10年先はどうでしょう。少なくとも、実質的にはメジャーの下部組織の地域リーグ(マイナー)になっている可能性が高いと思います。
 私が2000年に予想したように、今はイチローさんに続き、野手だけでも、ゴジラ松井さんも、リトル松井さんも、田口さんも、城島さんも、井口さんも、岩村さんも、メジャーで活躍中です。一方日本のプロ野球は、ジャイアンツが勝とうが負けようがテレビ視聴率は低迷し、その放送枠は減らされつつあります。観客数など満員の方が珍しくなりました。テレビ放映権料が入らなくなり、ニュースにもならず、オーナー企業も撤退すれば、「はい、それまでよ~!」なのです。
 本日、記録にも記憶にも残る偉大なる野球選手であるイチローさん、鈴木一朗さんが、メジャーのオールスター戦でランニングホームランを放ち、MVPとなりました。これは、現在の日本プロ野球の凋落にだめ押しをしたような効果があったと思います。
 あの高野連に振り回される高校球児たちのを含む日本の野球少年の多くは、その英姿に憧れを持ったはずで、有能な彼ら夢は、メジャーの舞台に立つことになるのは、至極当然なことだからです。そういった若者の健全な夢を、不正な金銭で足かせしようとしても、ほとんど無意味です。
 もはや、王さんや長嶋さんに憧れ、日本でプロ野球選手になりたいといった夢が描かれることはありません。憧れの対象となるべき一流のプロ野球選手は、自分の力を試すためにも、大挙して渡米しメジャーリーガーとして活躍する時代なのです。そして、その活躍に憧れた子供たちは、当然メジャーを目指すようになります。
 野球というスポーツをする若者の目標がメジャーとなってしまえば、日本プロ野球は通過点でしかなくなるのは明らかです。2年先でも10年先でも、地域に根ざしたマイナーリーグとして、再出発するしかなくなるでしょう。しかし、それは特に悪いことだとは思えません。野球をする者の夢の終着点が日本にはなくなったとしても、野球文化がなくなったわけではないのですから、日本の野球ファンは地元に密着したマイナーチームを応援し、そこから巣立ってメジャーリーガーを誇りにすれば良いはずです。むしろ、ラッパを吹きながら企業名を連呼するよりも、よほど楽しいではありませんか。

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